さあ今年も、新米の季節がやってきました。
甘くやわらかな香りとともに、ふわっと立ちのぼる湯気。つやつやと光る、炊きたてのごはん。
この季節ばかりは、何より先に、白いごはんをひと口食べたくなります。
毎日食べているお米も、新米となると心新たに、自然と感謝が湧いてくるのも不思議です。
さて、今年の新米には、何を添えましょう。
日本には、その土地に根差した郷土食があります。
新米とともに、風土の恵みと、先人たちの叡智に、想いを馳せる時間を。
お米が育った地の味と記憶を、一緒に楽しんでみませんか?
目次

新米の季節に考える、日本人とお米
「そろそろ、ごはんにしようか。」
日本人は、1日の食事のことを、「朝ごはん」「昼ごはん」「夜ごはん(夕ごはん)」と呼びます。
食事自体を「ごはん」と呼ぶなんて、お米への愛が溢れ出してしまっていますよね。
“瑞穂(みずほ)の国”(豊葦原瑞穂国)といわれる日本。
日本の高温多湿な環境や地形が、もともと稲作に向いていたから自然とお米が主食になった…と一般的には思われていますが、実はそうでもありません。
度重なる洪水で、水が多すぎる地域もあれば、しょっちゅう干ばつで水不足に悩まされていた地域もありました。
そんななか、私たちのご先祖様たちは1000年以上の間、地道に山を切り拓き、水を制御する土木工事や石積みなどを行い、人の手を使って、稲作ができる環境を整えてきたのです。
しかも、アジアの他の地域では米が年に2~3回収穫できるところもあるのに、日本は基本的には年に1度だけ。リスクも大きいなか、それでもお米を食べることを懇願してきた民族です。
こうして今、私たちが当たり前に、白米をおなかいっぱい食べられるようになったのは、ここ数十年のこと。
その姿を見て、ご先祖様たちはどう感じているでしょうか。
そして、私たちは、数千年にも及ぶご先祖さまたちの努力を知ることもなく、いとも簡単に手に入るようになったお米への感謝を、すっかり忘れてしまいつつあります。
新米の季節には、お米が食べられることへの感謝、そして、脈々と続いてきた命のリレーによって、今日の私たちが生かされているという事を、今一度、思い出したいものです。
日本の豊かな風土と郷土食

南北に長く、四季の移ろいが豊かな日本。
海に囲まれ、山や川、湖に恵まれたこの国には、土地ごとに異なる食文化が息づいています。
海辺では魚を干したり、甘辛く煮たり。山間の地域では、木の実や山菜を生かし、畑で採れた野菜は塩に漬けて、季節を越えて楽しんできました。
冷蔵庫もなかった時代、身近な自然の恵みを、どうすればおいしく、無駄なくいただけるか。先人たちは皆で、知恵を絞ってきました。
そうして各地で生まれた郷土食は、その土地の気候や風土、暮らしに寄り添いながら、親から子へ孫へと、受け継がれてきた文化です。
その土地の恵みと、そこで暮らしてきた人の知恵をいただく。
途絶えつつある日本の郷土食には、四季折々の恵みに感謝を捧げ、足るを知り、大切に最後まで味わいきる。そんな日本人の叡智を感じます。
数ある郷土料理のなかから、今回は、日本最大の湖である琵琶湖を有する滋賀県に伝わる、「えび豆」をご紹介します。
琵琶湖と育む、滋賀県の郷土料理【えび豆】

日本最大の湖、琵琶湖のある滋賀県。
湖で獲れる魚介類、田んぼで育つお米や豆、そして畑の野菜。それらを組み合わせながら育まれてきた、独自の食文化があります。
そのひとつが「えび豆」です。
「えび豆」とは、琵琶湖で獲れる「スジエビ」を、大豆と一緒に甘辛く煮た、滋賀県に伝わる家庭料理です。
スジエビは、日本の代表的な小型の淡水エビ。スジエビは琵琶湖八珍のうちのひとつでもあります。
琵琶湖八珍とは、琵琶湖固有の5魚種であるビワマス、ニゴロブナ、ホンモロコ、イサザ、ゴリ(ビワヨシノボリ)と、コアユ、スジエビ、ハスを合わせた8種を指します。
県立安土城考古博物館にて、2013年に開催された特別展示「華麗なる漁と美味なる食」にて実施された、湖魚料理の人気アンケートをもとに選定されたものです。
それぞれの頭文字を並べると、“ビワ・コ・ハ・ホン・ニ・ス・ゴ・イ”(琵琶湖は本当にすごい)となり、語呂よく覚えることができます。
かつての滋賀県では、田んぼの畦(あぜ)で、大豆や小豆などの豆類を育てており、貴重なたんぱく源として重宝されてきました。
琵琶湖で獲れたスジエビと、田んぼのほど近くで実った大豆。
その地域ならではの食材を、組み合わせてコトコト炊いた、物語を感じる郷土料理です。
また、えび豆には、“えびのように腰が曲がるまで、まめに暮らせますように”という、長寿への願いも込められているのだとか。
シンプルで素朴な、日々の食卓に並ぶ小さなおかず。そこにも、家族を思う気持ちが込められているのがまた、日本人らしい感性を感じます。
参考:農林水産省 うちの郷土料理「えび豆」(滋賀県)
参考:未来に残したい滋賀の食。琵琶湖でしか味わえない「琵琶湖八珍」
参考:朝日新聞 滋賀)琵琶湖八珍、ブランドに ロゴやマイスター制度
土地の味を、食卓へ。
昔ながらの郷土料理には、少し手間のかかるものや、他の地域では手に入りにくい食材を使うものもありますよね。
現代の食卓では、必ずしも昔と同じように作らなくてもいいのかもしれません。
大切なのは、その料理が生まれた背景を知り、今の暮らしの中でも楽しんでみること。
今回は、滋賀県の「えび豆」をヒントに、炊きたての新米によく合うご飯のお供を作ってみました。
使うのは、比較的どこでも手に入りやすい、手軽なドライパックの大豆と、スジエビの代わりの桜えび。
もちろん可能であれば、乾燥大豆を一晩水で戻して、お好みの固さに煮てから作るのもおすすめです。
桜えびはちょっと贅沢にたっぷりと。香ばしいえびの旨みと、ふっくらとした大豆。甘辛いしょう油ベースの味に、生姜と酢の爽やかな香りが、あとを引くおいしさです。
つやつやの新米に、ひとさじ。
ついついもう一杯、おかわりしたくなってしまうごはんのお供です。
新米に合う、アレンジえび豆レシピ
【えび豆の甘辛煮】
調理時間:15分
材料(作りやすい分量)
- 干し桜えび
- 20g
- 大豆(ドライパック)
- 120g
- 生姜(みじん切り)
- 1片(15g)
- (A)酒
- 大さじ2
- (A)みりん
- 大さじ1
- (A)砂糖
- 小さじ2
- (A)しょう油
- 大さじ1
- (A)酢
- 小さじ2
- 白ごま
- 小さじ1
- 三つ葉(ざく切り)
- 適宜
作り方
❶ 鍋に(A)を入れて中火にかけ、煮立ったら大豆と生姜を入れる。

❷ 時々やさしく混ぜながら煮、煮汁が少なくなってきたら桜えびを加え、煮絡める。



❸ 全体につやが出たら火を止め、白ごまを加える。

❹ 器に盛り、お好みで三つ葉を添える。

ここがポイント!!
蓋つきの容器に移し、冷蔵庫で3~4日ほど保存できます。
ドライパックの大豆の代わりに、水煮大豆でも作ることができます。その場合は、汁気をきってから使用しましょう。
乾燥桜えびは崩れやすいので、やさしく混ぜるようにしましょう。
ごはんに乗せるだけではなく、混ぜ込んでおむすびにするのもおすすめです。
滋賀県近江八幡市、「百菜劇場」。人も自然も、本来の姿へと戻っていく米づくり
一膳のごはんから、その土地の風景や、そこに暮らす人たちの営みに思いを馳せる。
顔の見える生産者さんのお米を選ぶことで、毎日の食卓に、そんな心豊かな瞬間がうまれます。
今回ご紹介するのは、琵琶湖の東岸、滋賀県近江八幡市の「百菜劇場」さん。
国の重要文化的景観にも指定された水郷地帯で、農薬や化学肥料を使わないお米づくりをなさっています。田んぼの近くの北之庄沢という小さな湖は、水郷めぐりの観光名所でもあります。
自然に近い環境で、安心安全なお米を育てることは、決して簡単なことではありません。
年々厳しくなる夏の暑さや、目まぐるしく変わる気候のなか、安定した収穫量を確保することの難しさ。
自然を相手にする農業は、人間の思い通りにいかないことが当たり前の世界です。
それでも、廣部さんが農業に魅せられ、続けてこられているのは、そこに大きな喜びがあるから。手間を惜しまず、毎日田んぼに足を運び、ご自身の目と手をつかって、地道に愛情をかけ続けた田んぼには、目に見える変化が訪れています。
土はよりやわらかく。そして、毎年少しずつ田んぼに生き物が増え、自然な本来の姿を取り戻していく様子は圧巻です。
田んぼで過ごす時間を、とても大切にされている廣部さん。
稲や、その周りの生きとし生けるものたちにも、その素敵な笑顔をいつも向けられていると思うと、炊き上がった新米を前に、なんだか顔がほころびます。
日本の原風景を残す田んぼ。そこに吹く風や、そこに暮らす小さな生き物たち。
猛暑のなかでも田んぼに足を運び、お米の成長をこまやかに見守り続けてくれた人がいること。
見過ごされがちな、食材をめぐる物語を知ることで、自然と感謝の気持ちが湧いてきます。
そうして日々のごはんが、より愛おしく感じられますね。
百菜劇場のお米
百菜劇場さんの滋賀県近江八幡市産
秋の詩(栽培期間中農薬・化学肥料不使用)
秋の詩はふっくらと炊き上がる大きな粒が特徴の、滋賀県でしか栽培されていないお米です。お米本来の甘みと香りを持ちながら、コシヒカリよりもややあっさりした味わいが楽しめるお米です。
食べることは、他のいのちとつながること
毎日食べるお米だからこそ、その向こうにある風景や人、歴史に思いを馳せることは、案外見過ごされがちです。
ですが、いのちをいただく食という行為は、風土や全ての自然、移りゆく季節への感謝と慈しみ、そして明日を生きる祈りのようなものです。
そして、その土地で昔から受け継がれてきた食材を、おいしく頂くための知恵を受け継いでいくこと。
同じ料理でも、地域によって味が違ったり、家庭ごとに作り方が少しずつ違うなかで、
「うちではこう作るんだよ」のように、何気ない会話や、家族や地域の人との繋がりの中にこそ、食文化は生きているのかもしれません。














